季節はずれの桜の下で


「心桜!」

 次の瞬間、大きな声で名前を呼ばれてハッとする。

 振り向くと、桜の木を囲む柵の外側に大和くんが立っていた。

「やっぱり、ここだった。一時間目から、堂々と授業サボるなよ。ハルにも言われてたんじゃねーの?」

 いつのまにか一時間目の授業は終わっていて、大和くんはわたしを探しに来たらしい。

「心桜、こっちに戻って来い。柵の中は危ないって、きのう言っただろ」

 大和くんが、柵の外側からわたしを呼んでくる。でも、わたしは大和くんの呼びかけには応えられない。

 みさとちゃんたちから関わるなって言われてるし。それに……、わたしは桜介くんのそばから離れたくない。

 告白の言葉はさえぎられてしまったけど、わたしは桜介くんのことが好きだ。

「心桜、早く」 

 桜の木の下に座ったまま動かないわたしを見て、大和くんの声が不機嫌になる。怒った声のときの大和くんに逆らうのはちょっと怖い。

 でも、わたしは勇気を振り絞って首を横に振った。

 わたしは、大和くんとは行かない。教室には戻らない。

 無言でそういう態度を示すと、大和くんが顔をしかめた。

「この前からいったい何なんだよ。意味わかんないことしてないで、早く来いって」

 大和くんが本気でイラつき始めているのが、声でわかる。それでもわたしが無視していると、大和くんが柵に手をかけた。