「それは、桜が散ったら教室に戻るって意味?」
中三の桜介くんは受験があるだろうし、進路のために教室に行かないといけないのかも。そう思ったけど……。
「……そういうわけではないんだけどね」
桜介くんが言葉を濁す。
困ったように眉をさげる桜介くんに、わたしの心臓の動きがドッドッと速くなる。
「だったら、どういう意味?」
「それは、もうすぐわかると思う」
不安でたまらなくて、心臓がドクドク鳴った。
どうして、桜介くんはそんなこと言うんだろう。
桜介くんのそばが、わたしにはとても居心地がいいのに。
「桜介くんに会えなくなるなんていやだよ。わたし、桜介くんが教室に戻っても会いに行くからね。というか、桜介くんが会いに来てよ。わたし、桜介くんが来れなくなっても、この桜の木の下に毎日来るから! だって、わたし、桜介くんのこと――」
「ありがとう、心桜ちゃん」
必死で早口になるわたしの言葉を、桜介くんがやんわりとさえぎった。
メガネの奥で細められた、桜介くんの目。そのやさしいまなざしに、胸がズキンと痛む。
わたし、今、桜介くんのことが好きだって言おうとしたのに……。
たぶん桜介くんは、わたしの気持ちに気付いて言わせてくれなかった。
桜介くん、言ったよね。わたしがここにいたらうれしいって。それなのに、どうして――。
泣きそうな目で桜介くんをじっと見つめると、わたしたちの頭上で桜の木の枝が風に吹かれてざわりと揺れた。



