交代でひとつひとつ言い合って、そろそろネタ切れかなあと思ったとき。
「秋なのに、桜が咲いたこと……」
桜の木をふと見上げながら、桜介くんがつぶやく。
何日か前まで満開だった桜の花はもうほとんど散りかけだけど、季節はずれに咲いた桜の花はわたしと桜介くんを導き会わせてくれた。
だから、わたしが最近で一番うれしかったことはこれかもしれない。
「秋に咲いた桜の下で、桜介くんに会えたこと……」
桜介くんの横顔を見つめながらそう言うと、彼がゆっくりとわたしを振り向いた。
桜介くんと目が合って、心臓がドクンと高鳴る。
桜介くんを見つめながら、わたしは思っていた。
秋に桜が咲いたことも、わたしたちがここで出会えたことも、運命だったんじゃないかなって。
「わたし、もう教室には戻らない。ずっと朝からここに来る」
わたしが宣言すると、桜介くんがふっと笑った。
「おれも、心桜ちゃんがいつもいてくれたらうれしいよ。おれがいるあいだはここを逃げ場にしてくれていいって思ってた。それで、心桜ちゃんを守れるなら……。でも……」
桜介くんが、ふと話を止めて上を向く。
「もうほとんど散っちゃったね……」
「え……?」
「桜……。心桜ちゃんと会えたことは嬉しいのに、今の心桜ちゃんを置いていって大丈夫かなって心配もしてる」
「置いていく……?」
桜介くんの言葉に、心臓がヒヤッとした。
「おれが心桜ちゃんと会えるのは、桜が咲いてるあいだだけなんだ」
桜介くんの言うことは、ときどきよくわからない。



