季節はずれの桜の下で


「ねえ、心桜ちゃん。おれと、しあわせゲームしない?」

 桜介くんが、ふいに話題を変える。

「しあわせゲーム……?」

「そう。小さい頃、うちの母親が姉ちゃんとおれに教えてくれたゲーム。ひとりずつ順番に、自分が楽しいこと、うれしいこと、好きだなあって思うことをひとつずつ言っていくんだよ。悲しくて泣きたくなったり、うまくいかなくてつらいときにやるのが、一番効果的」

 桜介くんが、わたしに説明をする。言葉の連想ゲームだ。似たような遊びを、わたしも昔、お母さんに教えてもらったことがある。

 たしか、参観日で大和くんにからかわれて、学校で全然話せなくなった頃だったと思う。

『学校でお話できなくても大丈夫。その代わり、お家で楽しいこと、うれしいこと、好きだなあって思うことをお母さんに教えて』

 そんなふうに言われて、学校から帰ってくるとお母さんといっしょに言葉遊びのゲームをやった。

 あのときのお母さんは、いつも落ち込んでたわたしを元気付けようとしてくれていた。

 桜介くんも、そうなのかな……。

「じゃあ、最初はおれからね。うちの犬と遊ぶこと」

 ぼんやり考えていると、先行の桜介くんが最初の言葉を言う。