季節はずれの花を咲かせた桜は、満開を過ぎてからすごい速さで散っている。
それに、きのうの夜に降った雨のせいで、綺麗なピンク色だった桜の木が、今は茶色の木肌が目立って寒そうだ。
最近の気温はすっかり秋に戻ってしまってしまって、風が冷たい。涙で濡れたわたしの頬も、寒くてヒリヒリした。
早く、桜介くんに会いたい。
優しい笑顔で、声で、わたしの名前を呼んでほしい。
そうすれば、頬の冷たさも、傷付いた心も温かくなるはずだから。
桜の木まで全速力で走って、木の周りを囲む柵に突進するみたいにぶつかる。
ガタン――。
大きな音に顔をあげた桜介くんは、わたしを見るなり大きく目を見開いた。
「心桜ちゃん、大丈夫?」
桜介くんのやさしく穏やかな声が耳に届いた瞬間、ぶわーっと涙がこぼれ出た。
「おかあさんにもハルちゃんにも心配かけたくない……。でも、ムリだよ……。桜介くん、わたし、ずっとここにいたい……!」
柵の外でしゃくりあげて泣いていると、桜介くんが歩み寄ってくる。
「心桜ちゃんがいたいなら、好きなだけいていいよ。心桜ちゃんがいてくれたら、おれもさびしくない」
「ほんと……?」
「うん、ほんとう」
目に押し当てていた手を少しずらして視線をあげると、桜介くんがふっとほほえんだ。
とてもやさしく……。だけど、なんだかすごくさびしそうに。



