季節はずれの桜の下で


「あーあ、もう時間だ。どうしても話さないなら、せめて意思表示くらいはしてくれる? これからは大和とは関わらないで」

 みさとちゃんに強い口調で言われて、小さくうなずく。

 もちろん、わたしから大和くんに関わることはない。

「あと、校外学習のグループ発表も、心桜ちゃんは何もしなくていいから」

「参加しなかった心桜ちゃんは、グループのメンバーじゃないもんね」

 みさとちゃんと綾香ちゃんが、顔を見合わせていじわるに笑う。

 わたしに言いたいことを全部言うと、みさとちゃんはなんだかスッキリした様子で、綾香ちゃんとふたりで教室に戻って行った。

 だけど、勝手な言いがかりをつけられて、突き飛ばされたわたしのほうは、心の中がぐちゃぐちゃだ。

 どうして、わたしがみさとちゃんたちにあんなふうに言われなければいけないんだろう。

 わたしが何も言い返さないから……。だから、何を言ったっていいと思ってるのかな。

 わたしは、学校で話せない。でも……、「いやだ」って言えないからって、傷付いていないわけじゃない。

 ハルちゃんは、「授業をサボっちゃダメだ」って言ったけど、こんな気持ちで教室に戻るなんてムリだよ。

 みさとちゃんたちの顔を見たら、わたしはたぶん、泣いてしまう。

 こんなときに、わたしが行ける場所は学校でひとつだけ。

 桜介くんのいる、校庭の桜の下だけだ。

 気をゆるめると溢れそうになる涙をこらえて立ち上がると、わたしは校庭の桜の木を目指して校舎を飛び出した。