季節はずれの桜の下で


 たぶん、みさとちゃんは大和くんのことが好きなんだ。

 だから、大和くんがわたしに絡むのが気に入らないんだと思う。

 でも……、だからって、いやがらせされたり、悪意を向けられても困る。

 大和くんがわたしに絡んでくるのは、人前でうまく話せないわたしを、なにもできない可哀想な子だって思って見下してるからだ。

 大和くんは、昔からわたしをからかって楽しんでる。

 わたしが大和くんに近付いてるんじゃない。

 関わりたくないと思っているわたしに先に絡んでくるのは、いつだって大和くんのほう。

 文句があるなら、わたしじゃなくて大和くんに言ってほしい。

 思うことはいっぱいある。でも、それを言葉にしたいと考えると、心臓がドクドク鳴って、喉が詰まって声にならない。

「あたしたちの前でぶりっ子しなくていいんだからさ、なにか言いなよ」

 もどかしい気持ちでうつむいていると、みさとちゃんにドンッと強い力で乱暴に肩を押された。

 ガタン、と非常用扉に背中がぶつかって、わたしは思わず尻もちをつく。

「……っ!」

 痛い……。

 理不尽なことをされてるって思うのに、文句の言葉も言えない。

 泣きそうな気持ちでうつむいているうちに、予鈴が鳴った。