季節はずれの桜の下で


 放課後、家に帰る途中でハルちゃんに聞かれた。

「心桜はどうして桜の木のそばになんか行ったの?」

 スマホのメモアプリを開くと、頭の中でハルちゃんへの答えをゆっくりと考える。

 しばらく悩んでから、わたしは文字を打ってハルちゃんに見せた。

《会いたい人がいるから》

 それを読んだハルちゃんが、ちょっと意外そうに目を見開く。

「え、心桜。もしかして、それって好きな人ってこと?」

 口元に手をあてたハルちゃんが、ナイショ話するみたいに、こそっとわたしの耳元に尋ねてくる。

 好きな人……。

 ハルちゃんの言葉が、なんだかわたしをくすぐったい気持ちにさせる。

 桜介くんがわたしの……、好きな人——?

 そっか。わたし、桜介くんのことが好きだから。

 だから、彼と一緒にいたいんだ。

《そうかも……》

 そんな答えを、メモに打ち込む。

 そうして桜の木の下でほほ笑む桜介くんの顔を思い浮かべると、ふわふわとあまくて、とてもやさしい心地になった。