季節はずれの桜の下で


 話せないわたしを面倒だと思うなら、放っておいてくれたらいいのに。

 言えない言葉を飲み込んで、ぎゅっと唇をかむ。そんなわたしに、大和くんが忠告してきた。

「あの木に近付くのは、もうやめろよ。あの木は——」
「宮地~、夏目~! いつまで廊下で遊んでるんだ。早く教室入れ~!」

 大和くんが最後まで言い終わらないうちに、担任の先生が教室から顔をのぞかせて、大声でわたしたちに注意してきた。

「はーい。急げ、心桜」

 大和くんが大きな声で返事をして、わたしの手を引っぱる。

 無理やり引っ張られながら教室に入ると、クラスメートたちがチラチラと見てきた。

 あたりまえだ。遅刻ギリギリで手をつないで教室に駆けこんでくるなんて、ワケありな感じがする。

 たいていのクラスメートは冷やかしの目でわたしたちを見ていたけど、みさとちゃんだけはわたしのことをにらんでいた。

 怖かったから、なるべくみさとちゃんのことは見ないようにした。

 一時間目の授業が終わったあと、わたしはタイミングを見計らって桜の木の下に行こうと思った。

 だけど、席を立とうとすると大和くんが必ず近付いてきて、わたしは教室を抜け出すことができなかった。