みさとちゃんたちには会いたくないし、大和くんの言うことをきくのは癪だけど……。ハルちゃんは困らせたくない。
「また来るね……」
わたしは小さな声でささやくと、桜介くんに手を振った。
柵の向こうではハルちゃんとの電話を終えた大和くんが腕組みして立ち、わたしのことを見張っている。
わたしが柵を乗り越えるのにもたついていると、「ほら」と大和くんが手を貸してくれる。それから、わたしの手をつなぐとグイグイと引っ張って歩き出した。
桜の下には桜介くんだっていたのに、挨拶もせずに行くなんて、大和くんはちょっと失礼だ。
大和くんに手を引かれながら振り向くと、桜介くんが笑いながらひらりと手を振ってくる。だからわたしも、大和くんに気付かれないようにこっそり手を振り返した。
「なあ、もしかして……。きのうも、体育のあと、あそこに隠れてた?」
校舎に入って教室に向かう途中、黙ってわたしの手を引っぱっていた大和くんが、ふいにそんなふうに聞いてきた。
きのう、みさとちゃん達に体育着を捨てられたあと、わたしは昼休みが終わるまで桜の木の下で授業をサボった。大和くんは、わたしにそのことを問いただそうとしてるんだ。
でも、大和くんの質問にわたしは答えられない。
心臓をドキドキ鳴らしながら下を向くと、歩きながら振り向いた大和くんがちょっと面倒くさそうにため息を吐いた。



