季節はずれの桜の下で


「心桜!」 

 苛立った声でわたしを呼ぶ大和くんから顔をそらすと、桜介くんが「いいの?」と聞いてくる。

 笑って小さくうなずくと、スマホの着信音が鳴った。

 ドキッとして振り向くと、大和くんがスマホをわたしのほうに向けながら、「ハルから」と言う。

 ハルちゃん……?

「あー、ハル? 心桜見つけた。ん? どこいたか? なんか知らんけど、校庭の桜のとこ。とりあえず、連れて戻る」

 大和くんが、ハルちゃんと電話で話してる。

「心桜、ハルも心配してる」

 スマホから耳を離した大和くんに言われて、わたしはどうすればいいかわからなくなった。

 ハルちゃんにも、わたしが教室にいないことがバレてたなんて……。

 教室に行くのは怖いけど、ハルちゃんには心配かけたくない。

「心配してくれる人がいるなら、安心させてあげたほうがいいんじゃない?」

 困っていると、桜介くんがわたしの心を見透かすみたいにそう言った。

「でも……」と口を開きかけたわたしに、桜介くんがふっと笑う。

「大丈夫。おれはまだ、ここで待ってるから」

 少し、不思議な言い方だった。でも桜介くんの言葉で、心の中から迷いが消える。