足元に視線を落とすわたしに、
「心桜ちゃん」
桜介くんがと呼ぶ。そっと顔を上げると、桜介くんが「大丈夫だ」とでも言うようにうなずいてくれる。
そのおかげで、少し気持ちが落ち着いた。
「心桜、早くこっち来い。授業始まるぞ」
柵の向こうから、大和くんがきつい口調で話しかけてくる。いつものわたしなら、怯えて固まったまま動けなくなってしまう。
だけど、桜介くんがついていてくれるだけで、ほんの少し強くなれるような気がした。
顔をあげて、まっすぐに大和くんを見つめる。それから、ゆっくりと首を横に振ると、大和くんが驚いた顔をした。
「……なんだよ、それ。行かないってこと?」
コクンと頷くと、大和くんの顔色が変わった。
眉根を寄せてわたしをにらむ大和くんが、怒っているのがわかる。
「何考えてんだよ、心桜。そこ、立ち入り禁止エリアだって知ってるよな。この桜の木、いつ倒れてくるかもわかんないだろ」
大和くんはそう言うけど、わたしには季節はずれの花を咲かせた桜の木がそれほど危険だとは思わなかった。
わたしにとっては、木が倒れてくることよりも、みさとちゃん達にいやがらせされることのほうが問題だし。そのことへの不安や心配も大きい。
教室に行くくらいなら、立ち入り禁止エリアの桜の木の下にいたほうがずっと気持ちが落ち着く。
そんなわたしの気持ちは大和くんにはわからない。絶対に。



