「中三になってすぐに、クラスでいじめが起きたんだ。一部のクラスメートから毎日のようにいやがらせを受けている子がいて、最初はおれも傍観してたんだけど……。あるとき、思うことがあって、その子のこと庇ったんだよね。そうしたら、今度はおれが嫌がらせされる側になった」
クラスのみんなから無視されたり、物を隠されたり。そんなふうにして始まったいやがらせは、だんだんひどくなって……。
教室にいるのが辛くなった桜介くんは、授業をサボって校庭の桜の木の下に来るようになったらしい。
「この桜の木の下は、おれにとって心が落ち着く場所なんだ」
桜介くんが、季節はずれの花を咲かせた桜の木を見上げてつぶやく。
つられて見上げたわたしも、満開のピンク色に心が癒される気がする。
「……わかる。わたしも、ここに来て桜介くんに会うと心が落ち着くよ」
「ありがとう。それにしても、ふだんは話すのが苦手な心桜ちゃんが、おれとは自然に話せるっていうのも不思議だよね」
桜介くんが、桜を見上げながらふっと笑う。
その横顔をちらっと盗み見ながら、わたしは考えていた。
桜介くんのそばだとおだやかな気持ちになれるのも、わたしがわたしのままで受け入れてもらえると感じられるのも、桜介くんとわたしの境遇が似ていたからなのかもしれない。
このままずっと桜の木の下で座っていたいなあ。桜介くんとふたりだけで。



