季節はずれの桜の下で




 しばらくして涙が落ち着くと、わたしはぽつり、ぽつりと桜介くんに自分のことを話した。 

 幼稚園の頃から、人前で声を出すのが苦手なこと。家族の前ではふつうに話せるのに、たくさんの人の前で声を出そうと思うと、胸がドキドキして、喉が詰まる感じがして、うまくいかないこと。 

 小学生のときの参観日で勇気を出して声を出したとき、大和くんにからかわれたこと。そのときにすごくはずかしい気持ちになって、それからまったく声を出せなくなったこと。

 校外学習を休んだあとのグループワークで、急に同じ班のみさとちゃんが冷たくなったこと。みさとちゃんから、上履きや体育着を隠されるといういやがらせをされてること。

 これまで、誰にも話したことのないわたしのこと。それを、桜介くんに打ち明けられたことが自分でもびっくりだった。

 でも、話せて、少し心が軽くなったような気がする。

「……、おれと心桜ちゃんが出会えたのには、なにか意味があったのかもしれないな」

 わたしが最後まで話し終えたとき、桜介くんがぽつりとつぶやいた。

「え?」

 隣を見ると、桜介くんが悲しそうな目をしてふっと笑う。

「実を言うとね、おれも、もうずっとクラスになじめてないんだ」

 桜介くんの告白におどろく。

 桜介くんとは何度か桜の木の下で会っているけど、わたしは彼のことをなにも知らない。

 三年生なのに授業をサボって大丈夫かなとは思っていたけど、桜介くんにも教室から逃げ出したいと思う理由があったのだ。