季節はずれの桜の下で


 わたしはコクリとうなずくと深呼吸した。そうして心を落ち着かせて、頭の中で考えをまとめて、ゆっくりと口を開く。

「たぶん、だけど……。クラスの子からいやがらせされてる。今は、その子と同じ場所にいるのがきつい……」

 そうやって打ち明けるたわたしの目から、すーっと涙がこぼれた。

「そっか。勇気を出して逃げてきたんだね」

 あわてて涙をぬぐうわたしに、桜介くんがふっと笑いかけてくる。

『勇気を出して、逃げてきた』

 怖くて逃げだしてきたわたしを、桜介くんがやさしい言葉で受け止めてくれる。

 逃げるのは弱さで。みんなの前で声を出せないのは、わたしが臆病すぎるからだと思ってた。

 でも、桜介くんはそんなわたしにも『勇気がある』って言ってくれる。

 みさとちゃんや大和くんだったら、あまやかしだって、うざいって鼻で笑うかもしれないけど、桜介くんのやさしさがわたしにはたまらなく居心地が良い。