桜介くん——。
彼だったら、きっとわたしのことをそのまま受け入れてくれる。
そう思ったら、床に張り付いていた足を自然と動かすことができた。
体育館とは反対方向に走り出したわたしの耳に、授業開始のチャイムが届く。聞こえていたけど、無視をした。
更衣室のある建物を出ると校庭が見える。その一番奥で、季節はずれの薄桃色の花を満開に咲かせている桜の木。その木の下を、真っ直ぐに目指す。
走りながら桜の木の根元に桜介くんの姿を探すけれど、遠目に彼の姿は見えない。
いるかな……。いない——?
桜の木がいよいよ数メートル先に近付いてきたとき、横からぶわっと突風が吹いてきた。その風にあおられて、桜の花が散り、校庭の砂の粒が舞う。
腕で顔をかばって目を閉じていると、しばらくして風がやむ。
ゆっくりと目を開けると、桜の木の根元に桜介くんが座っているのが見えた。
よかった。会えた——!
ほっとするのと、うれしいのと、少しのドキドキと。一気に込み上げてくるいろんな感情が爆発しそうなのをぐっと堪えて、桜の木に向かって走る。
木を囲む柵に手をのせて乗り越えようととき、本に視線を落としていた桜介くんがおもむろに顔をあげた。
「ああ、やっぱり心桜ちゃんだ。そろそろ来るんじゃないかなあって思ってた」
「え……?」
桜介くんは、わたしがここに来るかもってわかってたの……?
なんだか不思議な桜介くんの言葉に気をとられて、柵の下の段にひっかけていた足がつるんと滑る。
「わっ……!」
ぶかっこうにお尻から落っこちてしまったわたしが小さく悲鳴をあげると、桜介くんが立ち上がって近付いてきた。



