季節はずれの桜の下で


 ちらっと振り向くと、そこにいたのは着替えを済ませて更衣室から出てきたみさとちゃんと綾香ちゃんだった。

「早く行きなよー」

 ふたりに可愛くせかされて、大和くん達のグループが体育館に向かって歩いて行く。

 大和くん達が離れると、みさとちゃんがわたしのほうを見ながら綾香ちゃんに言った。

「ほら。やっぱり心桜ちゃんが話さないのって、黙ってたら大和たちがかまってくれるからなんだよ。ほんと、うざい」

 みさとちゃんの言葉が、胸にグサリと刺さる。

 違うよ。黙っていたら大和くんにかまってもらえるなんて、そんなふうに思ったことは一度もない。

 ほんとうは、そう叫びたいけど、喉が詰まって声が出せない。

 みさとちゃんから向けられた悪意と、言いたいことをうまく言葉にできないもどかしさで小さく手が震える。

 みさとちゃんと綾香ちゃんは、ときどきわたしを振り返ってコソコソ話しながら体育館へと歩いていく。

 だけどわたしは、トイレの前から動けなかった。

 さっきから手の震えが全然止まらない。心臓がドクドク鳴って、喉が、胸が息苦しい。

 このまま、なんでもない顔をして体育の授業に出るなんて絶対ムリだ。

 どこか……、みさとちゃんや綾香ちゃんと顔を合わせなくてすむ場所に逃げてしまいたい……。

 体育着を握りしめてぎゅっと目をつぶったそのとき。頭の中でふっと思い浮かぶ顔があった。