季節はずれの桜の下で


 トイレの前で立っていると、男子更衣室から男子たちの集団が出てきた。そのなかには大和くんもいて、わたしに気付くと、グループを抜けて近付いてくる。

「なにしてんの、心桜」

 大和くんに声をかけられて、咄嗟に汚れた体育着を後ろに隠す。

「今、なんか隠しただろ」

 わたしのことなんて、スルーで見逃してくれたらいいのに。大和くんは、わたしの後ろを覗き込んできた。

「なに、その汚ねーの。それに、なんか臭くない?」

 大和くんが大きな声でそう言って、鼻をつまむ。

「大和ー、早よ行こ」

 顔をしかめる大和くんに男子の集団が近付いてくる。

 大和くん達のグループは背が高い子が多くて、グループで近付いて来られるとなんか怖い。

 背中に隠した体育着を握りしめて下を向くと、男子たちの誰かがからかうように笑う。

「なんかさ、大和、夏目さんにビビられてない?」

「ビビられてるとしたら、おまえらだろ」

 大和くんが軽い口調で言い返すけど、わたしからしてみれば、大和くんも彼のグループの人たちも同じくらいこわい。
 
 早くどっか行ってくれたらいいのに……。

「ちょっと、女子トイレの前で何してんの。男子っ!」

 背中を丸めて小さくなっていると、後ろから女子の声が聞こえてきた。

 怒ってるんだけど、ちょっと可愛く聞こえるように作った声。