季節はずれの桜の下で


「もしかして、心桜、なんか困ってる?」

 大和くんは、ときどき妙にするどい。

 わたしが微妙に視線をそらすと、大和くんはわたしから離れて、二つ隣のハルちゃんのクラスに走っていった。

「ハルー! ちょい、来て。心桜がなにかあったっぽい」

 大和くんが大きな声で呼ぶと、ハルちゃんが教室から出てきてくれた。

「心桜、どうしたの?」

 頼んでもないのに、大和くんはおせっかいだ。でも、どうすればいいかわからず困っていたから、ハルちゃんが来てくれてほっとする。

 わたしは制服のポケットからスマホを取り出すと、メモを開いて急いで文字を打った。

《体育着がなくなった。貸してくれる?》

 それを見たハルちゃんが眉を寄せた。

「貸すのは全然いいよ。でも……、上履きもなくなって、体育着もなくなったの?」

 同じ日に上履きも体育着もなくなるなんて――。

 ハルちゃんも、なにかおかしいと思ったみたい。

「もしまたなにかなくなることがあったら、すぐに教えて」

 ハルちゃんはそう言って、体育着を貸してくれる。おかげで、わたしは無事に体育の授業に出れそうだ。

 ハルちゃんを呼んでくれた大和くんにも、感謝しないといけない。大和くんは苦手だけど、彼が気付いてくれなかったら、わたしはあのまま途方に暮れていた。

 友達と廊下を歩いていた大和くんを追いかけて、トントンッと背中を叩く。

「ああ、心桜?」

 振り返った大和くんにペコリと頭を下げると、わたしは着替えのために更衣室へと急いだ。