季節はずれの桜の下で


 体育着の入った手提げをロッカーから取り出したとき、少し変な感じがした。

 あれ? なんか、いつもより軽い?

 ふと見ると、手提げの中は空っぽで何も入っていない。

 どうして……? ちゃんとここにいれてあったはずなのに。

 ぼう然とするわたしの後ろを、クスクス笑いながら誰かが走り過ぎていく。

 はっとして振り向くと、みさとちゃんが笑いながら綾香ちゃんの手を引っ張っていた。それを見てしまったわたしの胸が、ざわざわっとする。

 グループワークのとき、わたしのことを怒っているふうだったみさとちゃん。

 行方不明の上履きと体育着。

 それらが頭のなかで自然と繋がってしまい、わたしはあわてて首を横に振った。

 みさとちゃんが隠したなんて……。確証もないのに疑うのはダメだ。

 でも、このままでは体育の授業に出られない。

 どうしよう……。

「どうした? 心桜。次、体育だけど、行かねーの?」

 ロッカーの前で立ち尽くしていると、友達と一緒に通りかかった大和くんが声をかけてきた。

 大和くんにでもいいから、困ってることを伝えるべきかな。

「なに話しかけてんだよ、大和。どうせ、ムシされんのに」

 手提げを抱きしめて迷っていると、大和くんの友達が笑う声が聞こえてくる。それを聞いて、やっぱり大和くんには頼れないって思った。

 とりあえず職員室に行って、体育着がないことを先生に伝えないと……。

 こんなとき、ハルちゃんが同じクラスだったらなあ。

 泣きたい気持ちで教室を出ようとすると、大和くんがわたしを追いかけてきた。