朝、学校に行くと、靴箱からわたしの上履きが消えていた。
きのう、ちゃんと置いて帰ったはずなのに。どこにいっちゃったんだろう……。
「心桜、どうしたあ?」
困っていると、先に上履きに履き替えたハルちゃんがわたしの様子を見にきた。
空っぽの靴箱を指差すと、
「え、上履きないの?」
ハルちゃんが心配そうに眉を寄せる。
「きのう、ちゃんと置いて帰ったんだよね? ほかのところに紛れてない? 探してみよう」
ハルちゃんと一緒にほかの人の靴箱を探してみたけど、わたしの上履きはみつからない。
結局、わたしはハルちゃんに職員室についてきてもらって、お客さん用のスリッパを貸してもらった。
少し大きめのスリッパは、歩くとパタパタ音がする。
そのせいで、教室に入るときにいつもよりもクラスメート達から注目された。
だからといって、なにか話しかけられるわけでもないけれど……。人に注目されればされるほど、わたしの鼓動は速くなる。
誰とも目があわないように下を向くと、わたしは急いで自分の席に座った。
そのまま下を向いて座っていると、クラスメート達はすぐにわたしから興味をなくす。みんなから注目されていないとわかると、わたしの動悸はだんだんと落ち着いてきた。
それにしても……。上履きをなくすなんて、今日は朝からツいてない。
スリッパは歩くと音がうるさいから、今日はトイレと移動教室以外では席を立たないようにしよう。
ほんとうは、どこかの休み時間で桜の木の下に行ってみようと思ってたけど……。もしかしたら、今日は行けないかもしれない。
わたしのスクールバッグの中には、お父さんの部屋の本棚から借りてきたマンガ本が数冊入っている。
桜介くんに貸すつもりで持ってきたマンガだ。
今日持っていくって約束したけど、明日になっても許してくれるかなあ。
そんなことを考えながら、わたしは窓の向こうに見える校庭の桜に視線を向けた。
桜介くんのことを考えているうちに、教室に先生が来て授業が始まる。あまり集中できないでいるうちに一時間目が終わって、二時間目は体育の授業。
更衣室に移動しなきゃ。
スリッパがペタペタ鳴る音を気にしながら、体育着を取りに行く。



