季節はずれの桜の下で


「大和は心桜ちゃんのことばっかり気にするけど、心桜ちゃんって、しゃべらないだけで、べつに声が出せないわけじゃないんだよね。みんなに気を遣わせてるだけの、かまってちゃんじゃん。そんな子、ほっといたらいいのに」

 みさとちゃんがそう言った瞬間、グループの空気が凍りつく。

 笑顔の裏で、みさとちゃんはほんとうはそんなふうに感じてたんだ。そう思ったら、心臓がチクリと痛くなった。

 わたしは大和くんに言葉を伝えるために出したノートに、シャーペンで『ごめんなさい』と書く。

 自信のなさが現れているわたしの小さな文字を見て、みさとちゃんがノートからふいっと顔をそらした。

「そういうところが、かまってちゃんだって言ってんの」

 みさとちゃんの冷たい口調に、心臓がザクリと切り裂かれるような思いがした。

「あは、みさと。急にどうしちゃったの?」

 綾香ちゃんが、ちょっとびっくりしたように顔を引きつらせる。河井くんも、不穏な空気に引き気味だ。

 どうして急にみさとちゃんの態度が変わったのかはわからない。

 だけど、ひとつだけわかるのは、わたしはみさとちゃんに嫌われたんだってことだ。

 クラスのみんなから、透明な空気みたいに扱われることには慣れてる。

 注目されると緊張して、声が出せないことが余計に苦しく感じるから。いないものとして扱われても、それほど傷付かない。

 でも……。悪意の含まれた言葉には、やっぱり傷付く。

 わたしは『ごめんなさい』を書いたノートを閉じると机にしまった。