季節はずれの桜の下で


 ふと窓のほうに視線を向けると、遠くに校庭の桜が見えた。ピンクの花を枝いっぱいに咲かせる桜の木は、ここからでもしっかりと、その存在感をアピールしている。

 桜の木を見つめながら、わたしの頭に浮かぶのは桜介くんの顔だった。

 一時間目の授業をサボったわたしが二時間目から教室に戻るとき、桜介くんはまだ桜の木の下にいた。

 もう何度も読んでいるはずのコミック本を広げて、「おれはもうちょっとここにいるよ」なんて言っていた。

 あのあと、桜介くんはいつまで桜の下にいたのだろう。

 もしかして、まだいる――? さすがにそれはないかな。

 どうせわたしはいてもいなくても同じだし、六時間目も抜け出しちゃえばよかったかもしれない。

 もともとのわたしは、べつにサボり癖があるわけじゃない。

 教室で声を出せなくても、授業にはちゃんと真面目に参加してきた。それなのに……。

 校庭の桜が咲いてから。桜介くんと会ってから、わたしの心は不思議と彼に惹かれている。

 ただ隣に座って本を読んでいるだけでいいから、会いたいなあ。桜介くんに。

 たくさんの人の前や教室では話すことが怖くて、苦手で仕方ないのに。桜介くんの顔を思い浮かべたら、プラスの感情ばかりが浮かぶ。

 自分がなんでもできそうな気がする。

 家族や幼なじみのハルちゃん以外で、わたしを明るい気持ちにさせてくれるのは桜介くんが初めてだ。

 この気持ちは、なんだろう……。

 ハルちゃんに相談してみたいけど、文章でうまく説明できるかわからない。