季節はずれの桜の下で


 桜介先輩が持っているのは、物語もまだまだ序盤の10巻。数か月前に出た最新刊は、106巻とかだったはずだ。

 それなのに、10巻が最新刊って……。まだそこまでしか買えてないって意味なのかな……。

「あんまり気にしないで。ていうか、心桜ちゃん、この続き読んだことある?」

 わたしが首をかしげていると、桜介くんが興味津々に聞いてきた。

「あるよ。おとうさんがそのマンガ持ってるから」

「そうなんだ。このあと、主人公はどうすんの? 自分をだましてたやつのこと、許して仲間にする?」

 こくんとうなずくわたしに、桜介くんがきらりと目を輝かせながら次巻の展開を尋ねてくる。

 すごく期待のこもった目で見てくるけど、いいのかな。教えちゃって……。

「ネタバレしたら、楽しみがなくならない?」

「大丈夫。おれはもう、このマンガの続きは買えないから」

「え……?」

 桜介くんの言葉に、わたしは少し考え込んでしまう。

 買えないって、どういう意味だろう。

 お小遣いが足りなくて買えないって意味かな。だったら……。

「続き、貸そうか?」

「え……?」

 今度は、桜介くんが驚く。ぽかんとした顔で見てくる桜介くんに、わたしはにこっと笑いかけた。

「明日、続きを持ってくる。うちのおとうさん、このマンガ全巻そろえてるから」

 そう言ったわたしは、単純に桜介くんと次に会うための約束がほしかったのかもしれない。

 明日も、この桜の木の下に来るための……。