「もうすぐ授業が始まるよ。こっちに来て大丈夫?」
「平気」
ちょっと心配そうに見てくる桜介くんに笑いかけて、隣に座る。
そのときはじめて、本を持ってきたらよかったって思った。
大和くんの言葉にムカついて教室を出てきちゃったから、暇をつぶせるものが何もないのだ。
スマホも、電源を切ったままカバンの中に入れてきた。
でも、今さら本を取るためだけに教室には戻れないしな。
ほぼ満開に近い桜の木をぼんやりと見上げていると、桜介くんが持っている本のページをめくる気配がする。
彼が読んでいるストーリーは、昨日からどれくらい進んでるだろう。
桜介くんの手元をさりげなくのぞく。桜介くんが読んでいるマンガを、わたしはすでに履修済みなのだ。
読むのが遅かったとしても、今日までに2、3巻分は読み進めてるよね。
そう思っていたから、わたしは桜介くんが読んでいるページを見て「あれ?」と思った。
不思議なことに、桜介くんは昨日読んでいたのと同じ巻を読んでいる。
「その巻、昨日も読んでなかった?」
尋ねると、桜介くんが「あー、うん」とあいまいにうなずく。
「今は、これしか持ってないんだ」
「続きを家に置いてきちゃったの?」
「違うよ。おれの読める最新刊は、ここまでなんだ」
コミック本を閉じながら、桜介くんが少し変なことを言う。



