季節はずれの桜の下で


「鎌倉観光、すげー楽しかったよ。心桜も来ればよかったのに。参加しなかった心桜のために、いろいろ写真撮ってきたから、あとで見せてやるよ」

 無言でうつむくわたしに、大和くんがいろいろ言ってくる。

 どこがよかったとか、何がおいしかったとか。ごちゃごちゃうるさい。わたしは、そんなのどうでもいいのに。

「あとさ、心桜――」

 ひとりでたくさんしゃべったあと、大和くんが急に少しおとなしくなる。ちらっと見ると、大和くんはブレザーのポケットに手を入れて、なんだかそわそわし始めた。

 まだ、なにか言いたいことがあるのかな。でも、わたしはもうたくさん……。

 これ以上、大和くんの声を聞きたくないし、顔も見たくない。

 わたしがスッと立ち上がると、大和くんがちょっと驚いたようにまばたきをした。

「心桜……?」

 わたしの行動を不審げに見てくる大和くん。そんな彼から、ふいっと顔をそらすと席を離れた。

「あ、おい。どこ行くんだよ。もうすぐHR始まるぞ」

 教室を出て行こうとするわたしに、大和くんが声をかけてくる。わたしはその声を無視して、振り返らなかった。

 大和くんも、教室を出て行くわたしを追いかけてきたりはしない。