「ほらね、言ったでしょ」
昼休みが終わって校庭から人がいなくなると、男の子がブックカバーのついたコミック本を持って立ち上がった。それから、桜の回りを囲む柵を、来たときとは反対に、外側に向かってひょいっと飛び越える。
その瞬間、ざわりと風が吹いて、桜の木枝が揺れた。
わたしと男の子のあいだで、桜の花びらがひらひらと舞う。
散っていく桜の花びらを見ていたら、なぜだかわからないけれど、彼がそのままどこかに消えてしまうような気がした。
「もう、行くの?」
おもわず制服の背中に声をかけると、彼がゆっくりとふり返る。
「行くよ」
「あ、明日もまた来る?」
食い気味にたずねたら、彼がふっと笑った。
「たぶんね。明日来たら、また見つけてくれる?」
変な聞き方をするなと思いつつ、わたしは大きく首をたてに振った。
「……見つける!」
「ありがとう。じゃあね」
手を振って行ってしまおうとする彼。その背中を、わたしはまた呼び止めてしまう。



