季節はずれの桜の下で


 どうしようかな。迷っていたら、男子たちの集団がサッカーボールを持って校庭に出てきた。

 何人の生徒たちが桜の木の前を通過して行って、ドキッとしたけど、今のところ、安全のために作られた柵の内側に入り込んでいるわたしたちを気にする人は誰もいない。

 でも……。

「……、柵の中に入ってることがバレたら、怒られるかな?」

 かなり前のことだけど、安全柵の中にふざけてボールを蹴り込んだ生徒がいて。学校主任の先生が、全生徒に注意したことがあった。

 桜の木が倒れて、生徒が大怪我するような事故が起きてはいけないからだ。

 心配して立ちあがろうとするわたしをよそに、彼が「大丈夫、大丈夫」とのんきに笑う。

 そんなこと言って……。

 もし先生に見つかって怒られるようなことがあったら、わたしがなにか言いわけを考えないと……。

 そう思ったら緊張して、急に胸がドキドキしてきた。

 教室でクラスメートたちから注目されているときみたいに、肩に力が入って、本を持つ手がカタカタと震える。

 きゅっと奥歯をかんでうつむくと、男の子がわたしの顔を横から覗きこむようにしてほほえみかけてきた。

 距離が近い……。

 ちょっとドキドキしていると、彼がメガネの奥の目をいたずらっぽく細める。

「心配しないで大丈夫。今のところまだ、きみにしか見つかってないんだ」

 わたしにしか見つかってないってどういう意味?

 彼がなにを言っているのか、よくわからない。

 だけど彼の言うとおり、桜の木の下にわたしたちのことを注意しにくるおとなは誰もいなかった。