季節はずれの桜の下で


「きみも、好きなだけゆっくりしてから行けばいいよ」

「……ありがとうございます」

「おれに敬語とかいらないよ。お互いサボりに来てるのに、気を遣って疲れちゃったら意味ないでしょ」

 わたしがうなずくと、彼が嬉しそうにふっと笑う。

 それから特に話すことがなくなったのか、彼が手に持っていたマンガに視線を落とした。

 彼がマンガを読み始めたので、わたしも小説を開いて読書モードに入る。

 桜の木の下に座って、何度目かになるチャイムを聞き流したとき、少しお腹が空いてきた。

 スマホを出して時間を確かめると、ちょうど四時間目が終わって昼休みに入るところだった。

 すっかりくつろいじゃったな。お昼、どうしよう……。

 本にしおりを挟んで閉じる。それから、隣を見ると、男の子のほうは、チャイムなど特に気にする様子もなくマンガのページをめくっていた。

「あ、の……。まだここにいる?」

 おずおずとたずねると、彼が視線をあげた。

「あー、うん。きみはもう行く?」

「ぜったいに行かなきゃいけないってわけでもないけど……。お腹すかない? お昼ごはんは?」

「お昼ごはんか。きみはどうするの?」

「わたしは、お弁当持ってきてて……」

「そうなんだ。だったら、食べなよ」

「ここで?」

「うん。きみがよければ。もうちょっとマンガ読むから、おれのことは気にしないでいいよ」

 彼はそんなふうに言うけど、ひとりで外でお弁当を広げるのもなんだか気が引ける。