季節はずれの桜の下で


 わたしが笑うのをやめて真顔になると、

「今度はなに?」

 と、彼が不審そうに見てきた。

「……いえ、なにも」

 わたしが人前で話すのは苦手ってことを、初対面の彼に教える必要はない。余計なことを言って、気をつかわれるのもいやだし。

 わたしは首を横に振った。

「それより、授業に出なくていいんですか? 三年生、ですよね?」

 ハルちゃんが言ってたけど、三年生になったら、遅刻をしたり授業をサボる人が減るらしい。高校受験のために、内申点ってやつを少しでも稼がなきゃいけないからだ。

 部活も引退して、修学旅行も終わって、そろそろ本格的に受験勉強に身を入れる三年生が多い時期。こんなところでのんびりしていていいのかな。

「心配してくれてありがとう。でも、おれはもう授業とかべつに気にしなくていいんだ。それに、ここは、ずっと昔からおれのお気に入りの場所だから」

 心配するわたしに、彼がにこっと笑いかけてくる。

 気にしなくていいてことは……。推薦とかで、もう進路が決まってるのかな。

 彼が大丈夫と言うのだから、きっと大丈夫なのだろう。

 疑問に思いつつ、頷く。

 彼の言うとおり、ここは静かで落ち着けるから読書にはもってこいだし。

 今は、季節を間違えて狂い咲いた桜も綺麗だ。