「そっか、だから今日は学校が静かなんだ。きみみたいにマジメそうな子でも、学校のイベントサボるんだね。行き先ビミョーだった?」
「ち、がう……。ちゃんと、……」
怠け心からサボったわけじゃない。それは伝えたかったけど、喉の途中で言葉が詰まってうまく説明できない。
もどかしい気持ちで喉に手を当てると、彼が笑って目を細める。
「サボったわけじゃなくて、ちゃんとした理由がある?」
言葉にできなかった気持ち、わかってもらえた。
こくりと頷くと、「そっかあ、かっこいいね」と彼が笑みをこぼした。
……、かっこいい? サボってるのに?
「学校でみんながやってることを自分だけやらずにいるのって、わりとプレッシャーじゃない? パワーも勇気も必要でしょ」
彼の言葉に、わたしは小さくうなずいた。
彼の言うとおり、みんなが楽しみにしていた校外学習に「行かない」って決めるには勇気がいった。そのことを、おかあさんに伝えるのも。
おかあさんは、いつもわたしに「ムリしないで」って言うけど、きっと、心の中では、わたしがふつうに学校に溶け込めるようになることを望んでる。
わたしが「行かない」と言えば、おかあさんがガッカリするだろうなってことはわかってた。
保健室で勉強するために学校に来たのも、体調不良じゃないのに校外学習に参加しないことが後ろめたかったから。
だけど、初対面の男の子だっていうに、彼に「かっこいい」と言われて、気持ちが軽くなった気がする。
桜の木を囲む柵のほうに近づくと、わたしはリュックを肩からおろして柵の向こうにほうりなげた。それから、男の子のまねをして、ヨイショと柵を乗り越える。
彼みたいにかっこよくジャンプはできなかったけど、柵を乗り越えたら、不安や後ろめたさが消えた。
わたしは、自分で「行かない」って決めたんだ。よく考えて決めたことなんだから、ブレなくていい。



