季節はずれの桜の下で


「きみも、こっちに来る?」

 目が合うと、彼がにこっとわたしに笑いかけてきた。

 びっくりして首を横にふると、彼が残念そうに眉をさげる。

「そっか。きみもサボりに来たのかと思った」

 そう言われて、ドキッとした。

 桜の木の下にサボりに来たわけではないけれど、わたしは校外学習を病気じゃないのにずる休みしてる。

 リュックの肩ひもをきゅっと握ってうつむくと、男子生徒がふっと笑う。

「言えない秘密でもあるのかな? いいよ。おれは、きみのことを誰にも言わない」

 ほんの少し視線をあげると、彼が人差し指を口元にあてて、いたずらっぽく笑った。

 誰にも言わない……?

 そのひとことで、わたしの肩から力が抜ける。

 彼は、わたしのこともわたしの事情もまったく知らない人だから、変にとりつくろう必要もない。

 そう思ったら、肩の力といっしょに気持ちもゆるんだ。

「……、こ、校外学習……、サボった……」

 学校では、緊張してうまく話せない。そんなわたしの口から、おもわず小さな声がこぼれて、自分でも少しびっくりする。

 あわてて口をおさえると、彼がククッと笑った。