薄ピンクの花にさそわれるように、わたしは校庭の桜の木へと近付いた。
木の周りを囲う柵の前で立ち止まって見上げると、桜の花びらが数枚、秋風にのって、ひらひらと空に舞っていく。
秋にお花見もわるくないな。
しばらく柵の外で桜をながめていると、
「あれ、先客なんてめずらしい」
ふいに、うしろから声がした。
ドキッとしてふりむくと、すぐそばに知らない男の子が立っていた。
黒髪で、メガネをかけた目元が涼やかな、マジメそうな雰囲気の人だ。
背はわたしよりも少し高いくらいで、紺色のブレザーとグレイのズボンを着ている。うちの中学校の制服だ。
胸のところに、3と数字の入った学年バッチをつけているから、ひとつ上の先輩だ。
もう授業始まってるのに、どうしてこんなところに……?
疑問に思っていると、その男子生徒は、わたしの横を通りすぎて、桜の木を囲う柵をひょいっと乗り越えた。
え、大丈夫なの!?
あっけにとられるわたしの前で、彼が桜の木の下に腰をおろす。それから木の幹にもたれかかると、ブックカバーのついた本をひろげて読み始めた。
桜の木の下でゆったりと足をのばしてくつろぐ彼は、ずいぶん堂々としている。
ぼうぜんと見ていると、彼が本から顔をあげた。



