いつもよりゆっくりと歩いて登校すると、校庭の奥の桜の木がパッと目についた。
これまで、秋に桜の木が気になったことは一度もない。
だけど、今日は校庭の桜が気になってしまう。
中学校の創立記念に植えられたという樹齢五十年になる桜が、きのう、とつぜん、季節はずれの花を咲かせたからだ。
中一のときに知ったのだけど、校庭の桜は、実はちょっとした『いわくつき』らしい。
ほんとうかどうかはわからないけど、むかし、うちの学校でいじめにあって自殺しちゃった男の子がいて。
その子がいつもひとりぼっちで本を読んでいたのが、校庭の桜の木の下。そこは、死んじゃった男の子のお気に入りの場所だった。
だから今でも、桜の咲く時期になると、その男の子の幽霊があらわれるらしい。
生きているときにひとりぼっちだった男の子はさびしくて。もし、夕方の校庭で同じ年くらいの子に出会うと、そのままどこかへ連れ去ってしまうのだとか。
「秋に花が咲くなんて、怪奇現象じゃん」
「幽霊が出るのかな」
桜のウワサを知っているクラスメートたちが「こわい、こわい」ってさわいでいたら、
「ここ一週間、温かい日が多かったから、春になったと勘違いして花を咲かせたんだと思うよ。あの桜の木はもうだいぶ高齢だから」
担任の先生は笑ってそう言った。



