玉響の花雫    壱

家のドアを勢いよく開けた私は、
靴を揃えることもなく部屋に行き、
ローテーブルの前に座ると、鞄から
紙袋に入った小さな箱を取り出した。


お店の中だったから感情をなるべく
抑えて出さないようにしてた


けど‥‥‥どうしよう‥‥‥
今更ながら‥‥‥嬉しい‥‥‥。


両手でそれを抱き抱えると、
両目から涙が溢れ出す


筒井さんにとっては、
傘を貸したことへの
ただのお礼かもしれないけど、
初めて好きになった人から
プレゼントなんて貰えたのだ。


本当に夢見たい‥‥‥


涙をティッシュで拭うと、
テーブルの上に箱を置き、解くのも
勿体無い可愛いリボンを丁寧に解いて
いく。

開けるのにも手が震え、心臓も
破裂しそうなくらいバクバクと煩い


「あ‥‥‥嘘‥‥ネックレス?
 ‥‥可愛い‥‥‥」


紙袋に折り畳まれた小さなカードが
入っていたのでそれを広げて読むと、
直筆でメッセージが書かれていて
また涙が出てしまった。



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就職のお祝いもかねて傘のお礼です。
心優しい井崎さんなら素敵な社会人に
なれますね。
お名前と就職内定のことはマスターに
聞きました。いつも丁寧な接客を
ありがとうございます。


筒井 滉一

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筒井 滉一‥さん‥‥

マスターがいつの間に私のことを
筒井さんに話していたのか
分からないけど、
大切な人に名前を覚えて貰い、そして
大切な人の名前を知ることが出来た。


細いチェーンの真ん中に
小さな可愛い宝石がついていて、
それを壊さないように手に取る


もしもアルバイト最後の日に、
筒井さんがお店に珈琲を飲みにきたら、
その日はきっと失恋する日に
なってしまうけれど、自分の
想いをきちんと伝えよう。


こんな私に優しくしてくださったから、
学生最後の区切りと、約3年による
片思いにケジメをつけてから
新しい世界に踏み出したい


このネックレスが
似合う大人になるために‥‥