玉響の花雫    壱

『あ、起きた?井崎さんよく寝てたね。
 初めてだったから疲れてない?』


リビングに入ると暗いところで
みんなが洋画を見ていたが、
古平さんが声をかけてくれた。


「すみませんでした‥‥片付けとか
 しないまま寝てたなんて。」


寝顔を見られていたことも
恥ずかしいのに、先輩に片付けまで
させてしまい頭を下げた。


『そんなの気にしない。
 作ってない人たちが片付ければ
 いいんだって。それよりあったかい
 飲み物でも飲んでおいで。
 体が冷えたでしょ?』


「ありがとうございます。」


蓮見さんと亮さんは映画に
集中していたので静かにキッチンの方へ
行きお湯を沸かした。


『俺も珈琲飲みたいから一緒に頼む。』


「はい。ブラックでよろしいですか?」


カウンターチェアに座って肩をコキコキ
左右に動かしている筒井さんに
そう伝えると、フッと笑った後私の方をじっと見てきた。


「‥な、なんですか?」


『ん?‥ちょっと思い出してただけ。
 ‥今日のオススメを一つ。』


ドクン


懐かしいその台詞に、私もあの頃の
筒井さんを思い出す‥‥。


手動のミルがあったので、珈琲豆を
丁寧にひいていたら、みんなが
それに気付いたみたいで結局
5人分の珈琲を淹れることになった。


本格的なドリッパーやフィルターが
置いてあったので、美味しく淹れれるかは分からないけどマスターのように
ゆっくり丁寧にお湯を注いでから
少しだけ蒸らしカップに注いだ。


「はい、お待たせ致しました。
 本日はコナコーヒーになります。」


貴重なハワイアンコナコーヒーの豆が
置いてあったので香りを楽しみながら
ありがたく使わせてもらった。


蓮見さんってやっぱりお金持ちだ‥‥。

この家もそうだけど、サイクリングの
自転車も蓮見さんが用意したらしいし、
調理器具もどれもおしゃれで高級だ。


『フッ‥‥‥いただきます。』


全員分カップに注いで配ると、
私は一旦部屋に行き、鞄から
持ってきていたチョコレートを出し
またみんなの元へ戻った。


『霞ちゃん珈琲淹れるの美味いね!
 自己流?それとも習った?』


「あ‥‥その‥アルバイトしてたので、
 見よう見まねでやっただけです。
 きっと豆がとてもいい豆なので
 美味しいんですよ。」


『それでも美味しいよ。
 井崎さんありがとね。』


亮さんにもお礼を言われて嬉しくなる。

私もチョコレートと一緒に飲もう‥‥


『それ‥あの時のと同じやつだな。』


「はい‥‥私、珈琲は苦くて飲めないん
 ですけど、チョコレートと一緒なら
 ブラックでも飲めるんです。」


またお子様って言われてしまうかな‥‥


でも本当にこのビターチョコは
珈琲とよく合うから好きなんだ‥‥。


包み紙を向いて口に入れようとしたら
それをスッと取られると、あろうことか筒井さんがそれを食べてしまった。