玉響の花雫    壱

広いビルだけあって、総務課だけでもかなりの広さを誇るフロア内の入り口で挨拶をしてお辞儀をすると、一斉に視線が向けられみなさん忙しいのに同じように頭を下げてくれた。


『井崎さん、引き続きよろしくね。改めまして、4年目の古平 香織(こだいら かおり)
です。受付業務の前に、総務の仕事を一通り教えるね。』


レクリエーションから研修にも参加してくれてた古平さんにホッとして返事をすると頭を下げた


『筒井さんが認めるだけあるのね。本当にお辞儀が丁寧だわ。』

えっ?‥‥筒井さんが認めた?


よく分からずでポカンと口を開けていると、いきなり後ろから誰かにガッシリと肩を組まれて驚いた。


『今年の新人ちゃん?おっ!!可愛いね。』


『はぁ‥蓮見さん‥‥嫌がってるのでやめてあげてください。そんなんだと一月後確実に違う部署に行っちゃいますよ?』


『えーそれはないでしょ?えっと君は何ちゃん?』


えっ?な、何ちゃん!?


背も高くてガッチリとした男性に顔を近づけられ覗かれると近すぎて思わず顔を後ろに引いた


初対面なのにすごい近い距離感‥‥。
女の人にモテそうな容姿は筒井さんとはまた違うけど背も高くとてもカッコいい人だと思う


「お、お世話になります。井崎 霞です。
 ‥よ‥よろしくお願いします。」


頬に唇が触れそうな距離感にもっと体を背けようとすると、いきなり蓮見さんの体が私から引き剥がされた


『うわっ!!‥‥なんだ‥‥滉一か‥。見てみて!!いいだろーー。うちの新人ちゃん可愛いでしょ?』

つ、筒井さん!?

蓮見さんから離れられたのに、また後ろから両肩をガッシリ捕まえられてしまう


どこを見ればいいのか分からないけど、総務の人たちは呆れたように笑ったり溜め息を吐いたりしている。


『おい、業務中だろ?それに必要以上の接触は
 訴えれる案件なこと忘れるなよ。』


えっ?‥筒井さん‥‥怒ってる?


助けてくれたことは嬉しいけど、いつもの優しい話し方でも、面談の時の落ち着いた話し方でもなく少し怖い‥‥


『嫌だねぇ‥んなの分かってるって。これはコミュニケーションだよ、ね?霞ちゃん?』


か、霞ちゃん!?


『蓮見さん、ほんとに時間ないんでもういいですか?色々教えることあるので。そう言えば
経理から書類が急ぎで届いてたんじゃなかったですか?』


なんて答えていいか分からない私を蓮見さんから引き剥がしてくれたのは古平さんで、私の目の前に立つと腰に手を当てて蓮見さんを見上げている


『これから会議なのに‥‥はぁ‥‥じゃあまたね、霞ちゃん?』


少し長めの長髪をかきあげると、私に向かって投げキッスをしデスクの方へ歩いていく間も色々な女子社員に同じように話しかけたりして
ギャーギャー言われていた。


『井崎さん、ごめんなさい‥‥。上司があんな感じだけど根はいい人だし仕事は誰よりも真面目だから。』


『フッ‥‥頑張れ。』


「えっ?あ、はい‥ありがとうございます。」


私の肩に軽く手を置いた筒井さんは、先程の怖い雰囲気とは違い、優しく笑うと人事の方へ行ってしまった。