流れ星みたいな恋だった



ここはどこだろう。いつの間にか、見覚えすらない道に来てしまっていた。

「痛っ……!」

 途中、体が変なほうに傾いて足をひねった。私はその場にうずくまる。情けない。悔しさと悲しみで胸がいっぱいになった。

「なんで、私ばっかりっ……」

 ぽつんと冷たい水滴が肩に落ちる。真っ黒な空を見上げると、雨だった。

「うっ……あぁ……」
 
 無情にも降りそそぐ雨の中で、私は泣き崩れた。まるで、親に捨てられた哀れな子どもさながらに。



 その内、雨音に混じって、二つの足音が近づいてくるのが聞こえた。やがて、それは私の前で、ぴたりと立ち止まる。

「おやおや。こんなところに座りこんで、一体、どうしたんだ、お嬢ちゃん」

 耳にまとわりつくようなねちっこい声。

 両目を覆っていた手をよけ、涙と雨でぐしょぐしょになった顔をあげる。すると、そこにはガラの悪そうな男の人が二人、立っていた。

「まだ高校生じゃね?」

 声をかけてきたオールバック風の男に、となりにいたロングヘアーの男がこっそりと耳打ちする。

「しかも、結構、可愛いじゃん」

 ニヤリと口角を上げて笑った二人。嫌らしい視線を向けられ、背筋がぞっとした。

「なぁ、お嬢ちゃん。今からお兄さん達と一緒に遊ばない?」
「い、嫌っ、です……!」
「んなつまんねぇこと言うなって。ほら、行こうぜ!」
「ひっ……」

 オールバックの男に、強引に腕をつかまれる。かすかに服についたタバコの匂いが鼻をかすめて、恐怖で全身がこわばった。

 抵抗しようにも、相手は自分より遥かに力が強い。それにこの足じゃ、逃げることだってままならない。

 お願い、やめて……誰かっ! 

 もうダメかと思った。私はこの先、どうなってしまうんだろう。そう絶望しかけたその時だった。

「カッコ悪いなぁ。大の大人が二人で寄ってたかって、女の子をいじめるなんて」

 場違いなほど、のんきな声が間近で聞こえた。

「ああ? なんだ、テメェ?」
「俺は別に。たまたまここを通っただけの、”ごく平凡な男子高校生”だよ」

 暗がりでもよく目立つシルバーアッシュの長い前髪が、さらりと揺れる。ひとめ見てすぐに、今朝の彼だとわかった。

「それよりさ、もしその子に手出したら――殺すよ?」
「……はっ? ふざけてんのか?」
「本気」

 いきなりとんでもない言葉を口にした彼は、なんだか今朝と雰囲気が違った。口調自体は至って穏やかなのに、どこか目に見えない圧のようなものを感じる。

 すると、私の腕をつかむ男の手から力が抜けていく。

「ちっ、行くぞ」
「あ、ああ……」

 彼のただならぬ気配に気圧されて、二人は観念したらしかった。バツが悪そうに表情を引きつらせ、足早にこの場を去っていく。