列車の気配が去っていく。視界を覆っていた腕をどけると、信じられないことに、さっきまでいたはずの彼の姿が消えていた。

「え、ええっ!?」

 ほんの刹那、たった数秒足らずの時間だったはず。

 思わず、私は立ち上がって、辺りを見回す。しかし、彼らしきシルエットはどこにも見当たらない。

 とうとう精神がやられて、幻覚まで見るようになったのか。でも、だとしたら、このココアはなに?

 だんだん不気味に思えてきた私は、とっさに駅の建物の中に駆けこんだ。少し頭を冷やそうと、缶のプルタブを開け、中の冷たいココアを一気に半分くらい飲み干す。すっきりとした甘さが、のどを潤してくれた。

 空の缶を捨てる時、彼が言っていた切符売り場の自販機の前を通りかかった。それにはそもそも、当たりなんかついていなかった。