* * *
『将来はちゃんと稼げる仕事に就きなさい』
それがお父さんの教えだった。そのために必要なのが、学力なのだということも。
そんなお父さんのもとで育った私は、幼い内から塾に入れられ、小学校のテストの点数はほとんど満点。当然だ。私は常に周りの子達よりも、ずっと先の勉強をしていたのだから。
「七星ちゃんはすごいね!」
小さい頃はまだよかった。
友達や先生から褒めてもらえた分、勉強がそこまで苦には感じなかった。
中学に上がると、お父さんに県内トップの高校を受験するように言われた。そして、これが後に私の引きこもりの人生の引き金となった。
「ねぇねぇ! 今週末、みんなでカラオケ行かない?」
「おっ、いいねー! 行こ行こ! 七星も、誘う?」
「あー、七星かぁ」
「いつも塾で忙しそうにしてるし、多分、行けないって言われるんじゃない? それにほら、確かT校受けるとか前に話してたし」
「えっ、T校ってまさかあの!?」
「超頭いい人達が行く県内トップの進学校」
「それじゃ、かえって勉強の邪魔するみたいで悪いかー」
中学の三年間、成績は常に学年上位をキープ。少しでもテストの点数が下がろうものなら、塾の時間を二倍に増やされた。
「遊びなんかにうつつを抜かす暇があったら、勉強しなさい。これはお前の、幸せを思って言っているんだ」
私はその内、誰からも遊びに誘われることがなくなり、学校でも孤立するようになった。
そして、迎えた中三の冬。私はお父さんに言われた通りの高校を志望した。
事前に受けた模試の結果はB判定。後は当日の頑張り次第だと先生にも言われ、私は日々、寝る間も惜しんで勉強に励んだ。
ただ怖かった、受験に落ちるのが。たった一パーセントでもいいから、合格をいっそう確実なものにしたかった。
それなのに——
受験当日、私は途中で体調を崩した。朝からなんだか、妙に体がだるいような気がしていたのだ。
試験の最中、私は酷い吐き気と頭痛に襲われた。もはや、シャーペンすらまともに握っていられない状態だった。
「君、顔色が悪いよ。大丈夫かね?」
聞いてきた監督の先生に、大丈夫ですと答える余裕もなかった。
次の瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ。
ガタンと、体がイスから転がり落ちて、床に叩きつけられところで、私の意識は完全に途絶えてしまった。
その後のことは、もう思い出したくもない。
倒れた私を迎えに来たのは、なぜか仕事中のはずのお父さんで。帰り際、監督の先生達に何度も頭を下げる姿を見かけた。
「自己管理が甘い。受験生たるもの、自分の体調くらい日頃から気を配っておくべきだ!」
ほとんど引きずられるようにして連れてこられた高校の駐車場で、お父さんは私を怒鳴りつけた。
「どうして朝の時点で言わなかった!?」「受験はたったの一回きりなんだぞ!」
私の心を、容赦なく突き刺す言葉の槍。悔しかった。
でも、それよりももっと、なんで私が責められなくちゃいけないの? という理不尽な気持ちのほうが、いくらか強かったようにも思う。
「塾にもあんなに行かせたというのに——全部、”無駄”になったじゃないか!!」
無駄。突き放すようなお父さんの言葉に、その時、私の中のなにかがガラガラと倒壊を起こした。
今まで、私が必死で積み上げてきたものは、まるで意味がなかった。頑張ったところで、全部、無駄だった。
* * *
『将来はちゃんと稼げる仕事に就きなさい』
それがお父さんの教えだった。そのために必要なのが、学力なのだということも。
そんなお父さんのもとで育った私は、幼い内から塾に入れられ、小学校のテストの点数はほとんど満点。当然だ。私は常に周りの子達よりも、ずっと先の勉強をしていたのだから。
「七星ちゃんはすごいね!」
小さい頃はまだよかった。
友達や先生から褒めてもらえた分、勉強がそこまで苦には感じなかった。
中学に上がると、お父さんに県内トップの高校を受験するように言われた。そして、これが後に私の引きこもりの人生の引き金となった。
「ねぇねぇ! 今週末、みんなでカラオケ行かない?」
「おっ、いいねー! 行こ行こ! 七星も、誘う?」
「あー、七星かぁ」
「いつも塾で忙しそうにしてるし、多分、行けないって言われるんじゃない? それにほら、確かT校受けるとか前に話してたし」
「えっ、T校ってまさかあの!?」
「超頭いい人達が行く県内トップの進学校」
「それじゃ、かえって勉強の邪魔するみたいで悪いかー」
中学の三年間、成績は常に学年上位をキープ。少しでもテストの点数が下がろうものなら、塾の時間を二倍に増やされた。
「遊びなんかにうつつを抜かす暇があったら、勉強しなさい。これはお前の、幸せを思って言っているんだ」
私はその内、誰からも遊びに誘われることがなくなり、学校でも孤立するようになった。
そして、迎えた中三の冬。私はお父さんに言われた通りの高校を志望した。
事前に受けた模試の結果はB判定。後は当日の頑張り次第だと先生にも言われ、私は日々、寝る間も惜しんで勉強に励んだ。
ただ怖かった、受験に落ちるのが。たった一パーセントでもいいから、合格をいっそう確実なものにしたかった。
それなのに——
受験当日、私は途中で体調を崩した。朝からなんだか、妙に体がだるいような気がしていたのだ。
試験の最中、私は酷い吐き気と頭痛に襲われた。もはや、シャーペンすらまともに握っていられない状態だった。
「君、顔色が悪いよ。大丈夫かね?」
聞いてきた監督の先生に、大丈夫ですと答える余裕もなかった。
次の瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ。
ガタンと、体がイスから転がり落ちて、床に叩きつけられところで、私の意識は完全に途絶えてしまった。
その後のことは、もう思い出したくもない。
倒れた私を迎えに来たのは、なぜか仕事中のはずのお父さんで。帰り際、監督の先生達に何度も頭を下げる姿を見かけた。
「自己管理が甘い。受験生たるもの、自分の体調くらい日頃から気を配っておくべきだ!」
ほとんど引きずられるようにして連れてこられた高校の駐車場で、お父さんは私を怒鳴りつけた。
「どうして朝の時点で言わなかった!?」「受験はたったの一回きりなんだぞ!」
私の心を、容赦なく突き刺す言葉の槍。悔しかった。
でも、それよりももっと、なんで私が責められなくちゃいけないの? という理不尽な気持ちのほうが、いくらか強かったようにも思う。
「塾にもあんなに行かせたというのに——全部、”無駄”になったじゃないか!!」
無駄。突き放すようなお父さんの言葉に、その時、私の中のなにかがガラガラと倒壊を起こした。
今まで、私が必死で積み上げてきたものは、まるで意味がなかった。頑張ったところで、全部、無駄だった。
* * *

