「学校、お疲れ様、七星」
電車から下車して、駅のホームに降り立つ。すると、改札を抜けたところでお父さんの姿を見つけた。
「えっ、お父さん? 仕事はどうしたの?」
「今日は少し早めに終わったから、迎えに来たんだ」
驚いた私に、お父さんは微笑みを浮かべる。あの日以来、お父さんはまた昔みたいに笑顔でいることが多くなった。
「もう、幼稚園生じゃないんだから」
「ハハハハ、それは失礼。七星のことが心配でな。ところで最近、学校はどうだ?」
「そこそこ上手くいってるよ。友達もできたし、勉強は中学の時に塾で予習でやっておいた分があるから、なんとかついていけそう」
「そうか」
となりを歩いていたお父さんが、やや気まずそうに目線を落とす。
「七星、受験の時は本当に悪かった。あの時は、俺も気が動転していて。ついあんなことを……」
「大丈夫だよ、お父さん。私、もうそのことは気にしてないから。それに今は過去のことより、これから先の未来のことを考えていきたい。実は今日ね、学校で進路希望調査が配られたんだ。それで私、高校卒業したら文系の大学に行きたいって思ったの」
「文系の大学?」
「うん」
私はぎゅっと、肩にかけたカバンの紐を握る手に力をこめた。
「あのね、お父さん。私、将来、なりたい夢ができたの。きっとそう簡単には叶えられないかもしれないけど――私、小説家になりたい」
私の決意を聞いたお父さんは、驚いたように口を半開きにしたまま、私をじっと見つめている。
そりゃそうだ。小説家なんて、それで、まともな生活ができるほど売れている人の数なんて、きっと限られてる。そんなことはわかってる。口で言うほど甘くはない、シビアな世界なんだってことも。
でも、それでも、私は——
書きたい。いつか、誰かの心の拠り所になれるような物語を。
ずっとずっと辛い時、私を支えてくれたのは小説だったから。
「いいんじゃないか、すごくロマンがある」
ふわりと優しく、お父さんの瞳が和らぐ。どことなく嬉しそうな笑みだった。
高揚で胸が熱くなる。ちゃんと言えた。お父さんに認めてもらえた。
お父さんはそっと私の頭をなでる。まるで、小さな子を褒める時みたいに。
「記念すべき一作目ができたら、俺にも見せてほしい」
「ま、まぁ、考えとくよ」
ちょっと恥ずかしい気はするけれど。
「ねぇ、お父さん、ずっと気になってることがあるんだけど」
「ん? なんだ?」
「どうして、あの日、私があそこにいるってわかったの?」
ずっと疑問だった。どうしてあの日、お父さんは私の居場所がわかったのか。
「たまたまさ」
「たまたま? それって、どういう——」
意味深なお父さんの返事に、首を傾げたその時。
「おかあさん! あそこ、人がいっぱいいるよ!」
元気いっぱいの小さな男の子が、緑の広場のほうを指さす。
「あら、本当ね。ヒーローショーやってるみたいよ」
となりにいたお母さんらしき女の人が言う。
「ねぇ、お母さん、ぼく観てきてもいい!?」
「そうね、じゃあ一緒に行きましょうか」
二人の親子は仲睦まじそうに手を繋ぎ、広場のほうへ向かっていった。
「ヒーローショー……」
思い出したのは、彼の短冊。ヒーローになりたいなんていう、子どもじみた夢。
「七星も観るか?」と、おどけた口調でお父さんに聞かれ、私はもうそんな歳じゃないと抗議する。
「ハハハハ、昔は一緒に観てくれたじゃないか」
「そ、そうだっけ?」
そんなとりとめのない会話をお父さんと交わしながら、ヒーローショーを横目に私達は家路をたどった。こんなふうにお父さんと二人っきりで、帰るのはなんだかすごく久しぶりだった。
電車から下車して、駅のホームに降り立つ。すると、改札を抜けたところでお父さんの姿を見つけた。
「えっ、お父さん? 仕事はどうしたの?」
「今日は少し早めに終わったから、迎えに来たんだ」
驚いた私に、お父さんは微笑みを浮かべる。あの日以来、お父さんはまた昔みたいに笑顔でいることが多くなった。
「もう、幼稚園生じゃないんだから」
「ハハハハ、それは失礼。七星のことが心配でな。ところで最近、学校はどうだ?」
「そこそこ上手くいってるよ。友達もできたし、勉強は中学の時に塾で予習でやっておいた分があるから、なんとかついていけそう」
「そうか」
となりを歩いていたお父さんが、やや気まずそうに目線を落とす。
「七星、受験の時は本当に悪かった。あの時は、俺も気が動転していて。ついあんなことを……」
「大丈夫だよ、お父さん。私、もうそのことは気にしてないから。それに今は過去のことより、これから先の未来のことを考えていきたい。実は今日ね、学校で進路希望調査が配られたんだ。それで私、高校卒業したら文系の大学に行きたいって思ったの」
「文系の大学?」
「うん」
私はぎゅっと、肩にかけたカバンの紐を握る手に力をこめた。
「あのね、お父さん。私、将来、なりたい夢ができたの。きっとそう簡単には叶えられないかもしれないけど――私、小説家になりたい」
私の決意を聞いたお父さんは、驚いたように口を半開きにしたまま、私をじっと見つめている。
そりゃそうだ。小説家なんて、それで、まともな生活ができるほど売れている人の数なんて、きっと限られてる。そんなことはわかってる。口で言うほど甘くはない、シビアな世界なんだってことも。
でも、それでも、私は——
書きたい。いつか、誰かの心の拠り所になれるような物語を。
ずっとずっと辛い時、私を支えてくれたのは小説だったから。
「いいんじゃないか、すごくロマンがある」
ふわりと優しく、お父さんの瞳が和らぐ。どことなく嬉しそうな笑みだった。
高揚で胸が熱くなる。ちゃんと言えた。お父さんに認めてもらえた。
お父さんはそっと私の頭をなでる。まるで、小さな子を褒める時みたいに。
「記念すべき一作目ができたら、俺にも見せてほしい」
「ま、まぁ、考えとくよ」
ちょっと恥ずかしい気はするけれど。
「ねぇ、お父さん、ずっと気になってることがあるんだけど」
「ん? なんだ?」
「どうして、あの日、私があそこにいるってわかったの?」
ずっと疑問だった。どうしてあの日、お父さんは私の居場所がわかったのか。
「たまたまさ」
「たまたま? それって、どういう——」
意味深なお父さんの返事に、首を傾げたその時。
「おかあさん! あそこ、人がいっぱいいるよ!」
元気いっぱいの小さな男の子が、緑の広場のほうを指さす。
「あら、本当ね。ヒーローショーやってるみたいよ」
となりにいたお母さんらしき女の人が言う。
「ねぇ、お母さん、ぼく観てきてもいい!?」
「そうね、じゃあ一緒に行きましょうか」
二人の親子は仲睦まじそうに手を繋ぎ、広場のほうへ向かっていった。
「ヒーローショー……」
思い出したのは、彼の短冊。ヒーローになりたいなんていう、子どもじみた夢。
「七星も観るか?」と、おどけた口調でお父さんに聞かれ、私はもうそんな歳じゃないと抗議する。
「ハハハハ、昔は一緒に観てくれたじゃないか」
「そ、そうだっけ?」
そんなとりとめのない会話をお父さんと交わしながら、ヒーローショーを横目に私達は家路をたどった。こんなふうにお父さんと二人っきりで、帰るのはなんだかすごく久しぶりだった。

