俺の荒ぶる感情に水をかけたのは、我流のさみしげな声だった。



 「俺は思うわけ」


 「……なに?」


 「相手にしてもらった恩を律儀に返そうとする輩は存在する、人間の中に、一定数」



 膝の上で両手の指同士を絡めうつむく我流。

 言葉を選んでいるのか、歯切れが悪い。



 「まじめで責任感が強そうなあの女は、恩返ししなきゃと強迫観念に襲われるタイプだろうな」

  
 俺と目が合うのが気まずいのか、我流は流れる車外の景色にため息をもらした。



 「琉乃ちゃんを俺より知っている体で話さないで」と俺は語尾を強めたが、表情が勝手に陰ってしまう。

 思い当たる節があるせいだ。



 去り際、涙と一緒に琉乃ちゃんが残していったあの言葉。


 【借金を肩代わりしてもらう身なのに】



 ねぇ琉乃ちゃん、どんな思いで放ったの? 

 俺は君を幸せにできていない? 

 俺のことが嫌いになった? 

 俺はただ、琉乃ちゃんを笑顔にしたいだけなのに……