隙間なく触れている背中を唯都様の胸から遠ざけるため、一歩踏み出そうとしたけれど
「逃がしてあげたいのに、琉乃ちゃんを放したくない」
背後から巻き付いてきた力強い腕に、私の自由が奪われた。
「一番フェロモンが濃い部分、少しだけ味見させて。絶対に歯は立てないから」
鼓膜に降ってきた、切ないワイルドボイス。
私の首が横に引っ張られ、少しだけ顔が傾いてしまう。
視界の外で何かが起こっているのは事実。
背後から抱きしめられている喜びに競り勝つほどの得体のしれない恐怖が、背中をゾゾゾと駆けあがってきた。
のどが絞まって声が出ない。
シュルシュルシュル~
ひもがほどける音が耳をつく。
出どころは、どうやら耳のすぐ下あたり。
何が起きているの?と、バックハグ状態のまま視線だけを右にずらす。
まず瞳に飛び込んだのは、一切の笑みが消えた唯都様の瞳だった。
獲物を捕えきったジャガーのような鋭い眼光。
私の首に突き刺さっていて、さらに恐怖の闇が濃くなってしまう。



