唯都くんは『運命の番』を溺愛したい


 「私を下ろしてください」



 ペンライトを胸にあて、少しだけ語尾を強める。



 「また話が戻っちゃったか」



 私のお願いは聞く気ゼロらしい。

 涼しい顔で階段を上り始めた唯都様に、私は声を強めた。




 「私のせいで体を痛めたら困ります」


 「筋肉がつきにくい体質なんだ。お城の長い階段を、愛する姫を抱きかかえて登りきれるくらいは鍛えているから安心して」


 「ライブや歌番組に唯都様が出れなくなっちゃったら、悲しむファンが世界中にいるんですよ」


 「筋トレの証拠が残らない体っていうのも悲しいな」



 階段のステップを一段あがるたび、左右に揺れる私の体。



 「琉乃ちゃんようこそ、俺たちエンラダの夢の地へ」



 大事に上体を起こされたと思ったら、私の靴底はステージを踏みしめていた。