ハルサメレオンの春




 「私もいるもん、好きな人。ずっとずーっと」

 「ずっとですか」



 つい、笑みがこぼれた。

 この人はこうやって万人受けをしてきたのだろうな、ということを俺の中に刻み込まれた。



 「そう、ずっとだよ。好いてるだけなら裏切られないでしょ。だから、私はいつだって恋に明け暮れているんだ」



 台詞のような事を恥ずかしげもなく口ずさむ彼女は、夕陽にも似た暑さの中に儚さを持ち合わせていた。



 「その人は、幸せでしょうね」



 俺は小さく、返事をした。

 すると彼女の夕陽はすぐに落ち込んで、夜となった。



 「相手が居たらの話ね」



 ウフフ、と彼女はいたずらっ子のように笑った。

 -これが女優というものなのか。



 ADの「本番に入ります」の合図で、話は打ち切られた。
 きっと彼女は女優であり続ける。こうやって休憩の間の俺をも意表についたくらいで、隙を見せることもなく…いや、隙という物の文字がないのだ、彼女には。



 このあと、コマーシャル撮影に継いで、雑誌インタビューの対談へと続いた。