ようやく、己があの樹々瀬くんの腕の中にいるということを自覚する。
私が激突した相手はまさかの樹々瀬くんで、その上階段から落下していく私を見事に抱き留めて救出してくれた、と…。うん、出来のいい幻に違いない。そうであって。
「…間に合った」
品の良すぎる声に、私は視線を上げる。同時に、安堵の息を吐く樹々瀬くんが顔を下に向ける。近距離で視線が交わる。
「うわああ!?」
「ごめんなさいぃぃ」
およそ誰も聞いたことのない樹々瀬くんの絶叫が薄暗い階段にこだまする。これ現実だ。
唐突に申し訳なさが湧き上がってきた私は踊り場まで後退り、勢い余って尻餅をつく。色々と人通りのない場所で助かった。
私が醜態をさらす一方で、樹々瀬くんはハッと目が覚めたように、評判の涼し気な表情に戻る。
「驚かせてしまいすみません、大丈夫ですか?」
そのまま真っ直ぐ伸びた背筋で階段を下ると、私の前で片膝を着く。自然な所作で左手を差し出す姿は、恋愛漫画のヒーローのようで…
私は吸いこまれるようにその手を取る。
あたたかい。
氷細工のように繊細で指先までひんやり冷たい手。なのに、淑やかな温もりが掌を優しく包み込む。
たおやかな力にエスコートされて立ち上がった私はやっと落ち着きを取り戻す。
私が激突した相手はまさかの樹々瀬くんで、その上階段から落下していく私を見事に抱き留めて救出してくれた、と…。うん、出来のいい幻に違いない。そうであって。
「…間に合った」
品の良すぎる声に、私は視線を上げる。同時に、安堵の息を吐く樹々瀬くんが顔を下に向ける。近距離で視線が交わる。
「うわああ!?」
「ごめんなさいぃぃ」
およそ誰も聞いたことのない樹々瀬くんの絶叫が薄暗い階段にこだまする。これ現実だ。
唐突に申し訳なさが湧き上がってきた私は踊り場まで後退り、勢い余って尻餅をつく。色々と人通りのない場所で助かった。
私が醜態をさらす一方で、樹々瀬くんはハッと目が覚めたように、評判の涼し気な表情に戻る。
「驚かせてしまいすみません、大丈夫ですか?」
そのまま真っ直ぐ伸びた背筋で階段を下ると、私の前で片膝を着く。自然な所作で左手を差し出す姿は、恋愛漫画のヒーローのようで…
私は吸いこまれるようにその手を取る。
あたたかい。
氷細工のように繊細で指先までひんやり冷たい手。なのに、淑やかな温もりが掌を優しく包み込む。
たおやかな力にエスコートされて立ち上がった私はやっと落ち着きを取り戻す。



