満天の君と、純白のヒメゴトを。

癖のない黒髪から覗く、夜空を彷彿とさせる暗緑色の
滲んだ瞳。
それなのに高らかに晴れた空のように澄み切った潤い。
そして、儚げな瞬きに私はいとも簡単に吸い込まれていた。格好いい、じゃない。

「綺麗…」

時間が止まった気がした。いや、本当に止まっていたのかもしれない。それほどにたった一瞬の出来事が鮮烈すぎた。

僅かに見開かれた目が再度人込みにかき消され見えなくなっても、私はしばらく放心していた。

あの冷ややかなのに柔らかい眼差しが頭から離れなかった。

「惚れた?」
「え」
「樹々瀬灯に。まさしく学園物のヒーローじゃん」

冗談めいた言葉に私ははっと我に返る。

「えー?いやいやまさか」

私は急に照れ臭くなって桃に背を向ける。教室のドアに向かって歩みを進めながら、小さく唇の端を持ち上げる。

危ない、うっかり呑まれかけた。そうだったそうだった。

「所詮ただのイケメンだもんね」

自嘲的に笑う背に、「こじらせてんなー…」という呟きが重なる。

そのまま国語科準備室を訪れた私は、件の書類一式を預かる。各クラスの文化委員に配布しておいてほしいそうで、残り少ない時間を駆使して教室を順に巡回する。

その道中、やっぱりあの瞳が不思議と脳内をちらつく私は、窓ガラスに反射した自分の姿を横目に映す。