満天の君と、純白のヒメゴトを。

「私ももっと一緒に居たい!」

きっとそう素直に宣言することが、宮美さんたちへの最大限の礼儀。

私を必要としてくれる人は、私にも必要な人。

皺くちゃになったまなじりで踏ん張る涙さえ、彼となら星の欠片に姿を変える。

理由なんて、それだけで充分なんだ。

「喜んで!」

頬を綻ばせる樹々瀬くんは、舞台袖の階段を一息に飛び降りてみせる。

華麗に着地した爪先が弾く光の帯が、進むべき道を示してくれているよう。白む橋を渡り辿り着いた扉を、樹々瀬くんが押し開ける。

淡い日差しに包まれ振り返る彼は、どうしようもなく麗らかで…思わず立ち止まる私に、新緑の風が吹き付ける。

初夏の生命力に満ちたその風は勢いよく館内に息吹を齎し、扉を覆う薄手のカーテンを巻き上げる。
日を透かしはためく布は、純白のヴェールの如く、私の頭上に舞い降りる。

「ほら、俺の言う通り。本物のお姫様だ」

カーテン越しでも輝く樹々瀬くんは、またあの顔をしていた。何かを愛おしみ慈しむ、彼の透明な心がレースに添えられた掌から伝わる。

「俺はね、弱くてちっぽけで…誰かに明かりを灯そうとすればするほど、自分自身が暗闇に呑まれて迷子になる。だからひとみちゃん。俺のことを照らしていて。その代わり、もしひとみちゃんが俯く日が来たら、その時は何度でも伝えるよ。『ひとみちゃんは可愛いよ』って」

平然とそんなことを口にする所は相変わらず、むず痒い。本当は嬉しいから、むず痒い。
あまりに屈託のない笑みに、私は口を尖らせる。

「…あんまり女の子に可愛いって気軽に言わない方がいいよ。私含め勘違いしちゃう」
「言わないよ。ひとみちゃんにしか」
「それはそれで恥ずかしいのだけど」
「可愛いんだからしょうがない」

言っている側から…。
薄々勘付いてはいたけれど、何が琴線に触れるのか彼の賛辞は本気らしい。

天然というか不思議な人。

「でも、ひとみちゃんの可愛さが広まるのは嫌だから『可愛い』って言うのは二人きりのときだけにする」
「前提がおかしいよっ。誰かに知られたら学校から追放される。私が」
「それは困る」
「私も困る」
「なら尚更だ。二人きりの時限定のお姫様。みんなに内緒の…ヒメゴトだね」

艶やかさすら纏う面持ちに不釣り合いな幼気さに、私は思わず噴き出す。

やっぱり好きだなあ。
この時間が、この空気が。

素直な心で見上げる空は、人生で一番晴れ渡っていた。