満天の君と、純白のヒメゴトを。

「何の努力もしていない私なんかが、大した理由もないままに樹々瀬くんの隣にいることは、」
「『私なんか』って何?」

その言葉にハッとする。

不器用な怒りの混じった語調は、瞬く間に憂いの色に染められる。

「そんな可哀想なこと、言わないで」

可哀想な、こと…。

いつの間にか芽生えていた劣等感。最初は苦しかったけれどもう慣れてしまった感情。

『可哀想』だなんて、初めて言われた。

呆気に取られる私の顔にかかる後毛を、真っ直ぐ触れる指先が耳元まで連れていく。

「覚えてる?あの日…備品倉庫で話した、おとぎ話のこと」

静かに開けた世界の真ん中で、たおやかな灯が花開く。

「『自分はヒロインになれない』…ひとみちゃんはそう言ってたけど、そんなことないよ。秘めるべくして秘めた俺を見つけ出してくれた。俺の心を掬ってくれたひとみちゃんは、たった一人の俺のヒロイン」

ヒロイン…私が?

受け入れ難い形容に面を食らうばかりの私に、樹々瀬くんは必死に続ける。

「なんか、じゃない。なんかじゃないんだよ」

一音一音噛み締めるような響きが、否が応でも知らせてくれる。

「嘘じゃない」と。

頑なな心の鎧が軋む音がして…拳を握り込む。

今許したら、多分色々駄目になる。

躍起になって瞳を乾かす傍ら、樹々瀬くんは不意に腕の力だけで舞台に上がる。
そのまま縁で長い脚を持て余すように膝を折ると、一際穏やかな旋律が溢れ出す。

「俺ね、ひとみちゃんが好きって言ってたから久しぶりに読んでみたんだ。色んなおとぎ話」
「おとぎ話…樹々瀬くんが?」
「うん。図書室で借りてこっそり。『シンデレラ』とか代表的なものだけだけどね」

凝り固まった心に、覚えのある温もりが流れ込む。

かけがえのない純度が紡ぐ、温かさ。