突然のことに声を上げる間もないまま、私は幕の内側に引き摺り込まれる。
舞台に続く階段と身体の間。確かに人肌特有の体温がある。
「しーっ」
暗闇の中見上げた先では、涼やかさで満ちた樹々瀬くんが何とも言えない表情ではにかんでいた。
困ったような、嬉しそうな、哀しそうな。もしくはその全て。
樹々瀬くんは唇に当てた長い人差し指をそっと離す。
「もう少しだけこのままでいて」
あぁもう。この期に及んで鼓動がうるさい。
…手の、触れる距離。もう目を覚ましたのに。
「もう誰もいないな…あれ?樹々瀬は」
「さぁ。そういえばいないね」
「灯なら、あー…先に帰ったんじゃないすか?」
生徒会役員面々の会話を最後に無音になった空間に、ようやく幕が解き放たれる。
急に開けた視界に私は目を細め、視線を彷徨わせる。堂々と樹々瀬くんの顔を仰ぐ資格なんて今の私にはない。
広い館内の一隅に佇む沈黙は、ふと優しい呼気に払われる。
「ごめんね」
それはひどく淑やかで頼りなくて。
どうして樹々瀬くんが謝るの?
そう言いたいけれど上手く言葉が紡げない。
そんな私を見兼ねたような探り探りの呟きは続く。
「ここ最近、避けてたでしょ俺のこと」
「…っ」
「あ、違う。避けられたことを責めたいんじゃなくて…俺がまた、無神経なことをしたんだろうなって」
『また』ーー苦々しさを内包したその表現が、重い瞼を上向かせる。
「俺が一番、理解しているつもりだった。悪意の一切籠っていない好意や信頼が、相手の心を蝕み得ること」
舞台に続く階段と身体の間。確かに人肌特有の体温がある。
「しーっ」
暗闇の中見上げた先では、涼やかさで満ちた樹々瀬くんが何とも言えない表情ではにかんでいた。
困ったような、嬉しそうな、哀しそうな。もしくはその全て。
樹々瀬くんは唇に当てた長い人差し指をそっと離す。
「もう少しだけこのままでいて」
あぁもう。この期に及んで鼓動がうるさい。
…手の、触れる距離。もう目を覚ましたのに。
「もう誰もいないな…あれ?樹々瀬は」
「さぁ。そういえばいないね」
「灯なら、あー…先に帰ったんじゃないすか?」
生徒会役員面々の会話を最後に無音になった空間に、ようやく幕が解き放たれる。
急に開けた視界に私は目を細め、視線を彷徨わせる。堂々と樹々瀬くんの顔を仰ぐ資格なんて今の私にはない。
広い館内の一隅に佇む沈黙は、ふと優しい呼気に払われる。
「ごめんね」
それはひどく淑やかで頼りなくて。
どうして樹々瀬くんが謝るの?
そう言いたいけれど上手く言葉が紡げない。
そんな私を見兼ねたような探り探りの呟きは続く。
「ここ最近、避けてたでしょ俺のこと」
「…っ」
「あ、違う。避けられたことを責めたいんじゃなくて…俺がまた、無神経なことをしたんだろうなって」
『また』ーー苦々しさを内包したその表現が、重い瞼を上向かせる。
「俺が一番、理解しているつもりだった。悪意の一切籠っていない好意や信頼が、相手の心を蝕み得ること」



